【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(31~40) - 4/10

34、初めての事

誰にだって初めてのことはあるだろう。それに対してどう思い、どう行動するかが重要になってくるところもあるわけだけれど、それにしても目の前のひとは怯えすぎてはいないだろうか。全く美味しいのに、と粘つく豆を口に含みながら立香は考える。

納豆。それは日本人が主に朝食で好んで口にする食べ物であるが、美味しそうにそれを頬張る立香の目の前には、げんなりとしながらそれを見ているオベロンがいた。

「なあ、リツカ」

「だめだよ、オベロン。食わず嫌いは」

「……」

納豆。それは見た目通りに言ってしまえば腐った豆である。同じ漢字を使ったものに豆腐があるが、豆腐は腐ってはいない。なんとも不思議なものだ。それは置いておき、美味しそうに食べ続ける立香を見つつ、本当に何でこんなものを、とオベロンは箸で器用に一つつまみ上げる。糸を引いているそれを食べようだなんて正気の沙汰では無いと思うけれど、残念。聖杯の知識で食べられることは分かっていたのだった。

「本気でこれを食えと?」

「うん」

「……」

「痛い痛い、頭を鷲掴みにしない! それから睨み付けない!」

オベロンは立香の頭を鷲掴みにし、そのまま箸に持ったままの納豆を彼女へ近づける。こんなもの食えるか。ぎゃーぎゃーと騒ぐ口にそのまま箸ごと突っ込むと、立香は仕方が無いと咀嚼をし始めた。

「……」

「なんだよ、こっちを見ても何もないだろ?」

「……っ、オベロン横暴」

「はっ、そんなこと、最初から分かってることだろ」

それを承知で召喚したくせに。

ブリテン異聞帯で何もかもを飲み込もうとした奈落の虫、オベロン・ヴォーティガーン。全てを奈落の底へ落とそうとしたけれど、それでも腐ったものを食べないという、彼なりの常識はある。立香はむしろそんなゲテモノを喜んで食べていたのだから、譲ってやることでウィンウィンの関係だろう。なのにどうしてそんなにも赤い顔をしてこっちを睨み付けてくるのだ。

オベロンは立香の心なんてわざわざ考えなくても良いだろうと思い直し、改めて箸で切り干し大根を摘まんだのだった。