38、歯ブラシ
しゅこしゅこ、こしょこしょ。少しだけくすぐったいなと思いつつ、歯を磨き続ける。人類最後のマスターは、今日だって昨日だって毎日自分の歯の健康だって守り続ける。
勿論面倒くさいことだってある。それでも磨き続けているのは、歯を噛みしめなければ耐えられないような目に遭った時に虫歯だったらどうなるかを考えたためであった。それ以外にも、神経を抜いた歯は脆い。氷砂糖を少し噛んだだけで真っ二つに歯が割れたことがあるとカルデア職員の一人が言っていたことを思い出し、毎日ピカピカになるまで磨いているのであった。
「おい」
「はーひ?」
「咥えたまましゃべるなよ」
「……、何?」
「いつまで磨いてるんだよ」
「いつまでって、まだ十五分しか経ってないじゃない」
「十分長いだろ」
そうかな、と考える。確かに最初の頃は五分とかで流していたけれど、磨き残しがありそうでだんだんと長くなったのだった。
「いっそ病的なところもあるな」
「ほんはねもはいほ」
「だから、口に歯ブラシをくわえたまま話すなって言ってるだろ?」
そんなこと言ったって妖精眼で何を言いたいかは分かるんでしょう。全くめんどくさい。それでも咥えたまましゃべることで彼が不快になるなら仕方ないか。
自分でも何処までがずぼらなのかと思いながらもすすぎ始めるのだった。