39、素直じゃないひと
「サーヴァントって眠る必要ないんだよね?」
「ああ、そうだけど?」
「それだったらどうしてベッドの上を占領するわけ?」
「眠らなくても良いけど、それと娯楽として眠るのは別だろ? 何? マスターは俺を周回に連れ回したあげくに、休むなって言いたいわけ?」
「そこまでは言ってないけど……それでも私のベッドの上を毎日ポテチとか虫でいっぱいにされると眠るときにどうして良いか分からなくなるの」
「別にそのまま寝ればいいんじゃない?」
「私は汚ベロンと違ってきれい好きなんです」
「おい、今オを妙に強調しなかったか? それと、何か別の言葉が混じってるように聞こえたんだけど、気のせいかな?」
「気のせいじゃ無いと思うよ、汚部屋住みの汚ベロンさん」
「……」
これがいつもの私とオベロンの会話。どちらも喧嘩を売るように、そして買わないようにすれすれの会話をする。最初からこんな関係であったわけではないけれど、これはこれで楽しい関係。私たちの関係を知らないひとから見たら、相当仲が悪いんじゃないかと思われているのかもしれないし、実際に「大変だね」と声をかけられたこともある。でもそれは最初だけ。第六異聞帯の記録を見たもの、他サーヴァント達から聞いたもの。そのサーヴァント自身だって、だんだんとこの関係になれていったのであった。
くいくい。
今日だって私はベッドに座ったまま、そしてオベロンは私のベッドに寝転がったまま言い争いをしていた。
くいくい。
もう一度服を引っ張られる。なんだろうと引っ張る先を見ると、彼の異形の手が私の服を握っていた。
「新手のツンデレ?」
「ちげえよ。……っと、汚い言葉は無しだったね」
「いや、もう素でもそうじゃなくても隠せてないから隠さなくていいんじゃない?」
「いやだなあ、マスター。きみは何を言っているんだい?」
それより。オベロンはこちらを見上げてにやつきながら一度言葉を切る。それから口角を上げたまま、いかにも楽しそうに口を開いた。
「そんなに寝たいなら、隣で寝たら良いだろ?」
「え? 何で急にそんなこと」
「マスターは俺を疑ってるのかい? 別に何もしないし、なんだったら永遠に覚めないぐらい深い夢を魅せてやろうと思っただけなんだからいいじゃないか」
「あびーちゃ」
「おっと、彼女のことは呼ばないで欲しいな。俺がそこまであいつのことを好きじゃないの、知ってるだろ?」
「だったら変なこと言わないでよ」
「別にいいじゃないか」
言いながらも横にひとが一人横たわれるぐらいのスペースを空けてくる。そうしてくいくいと再び服を引っ張った。
全く、本当に素直じゃないんだから。
どこかの音楽家が言いそうな言葉を思い出しつつ、たまの気まぐれに付き合うのも良いかと思い、彼の隣に寝転ぶのであった。