【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(41~50) - 10/10

50、育成歴

「子供の頃のこと、ね?」

「立香ちゃんの育成歴を、って頼まれてしまったんだよね。まったくこんなことを調べてどうするんだって抗議したんだけど」

「ううん、大丈夫ですよ。きっと、人理修復を遂行できる人間に興味があるんですよね?」

「まあ、そんな感じだった。私たちが、ドクターが特異点修正に大きく貢献したということにしても、実際現地に向かったマスターがどんな人間だか気になったみたいでね」

「分かりました。でも、本当にそんな、それこそ特異なことなんて無いんですけどね?」

「そうだよね。立香ちゃんは……魔術師っぽくはないよね」

職員と話したのは五分ほど前。育成歴を記入して欲しいと資料を受け取り、真っ直ぐに自分にあてがわれた部屋に帰ったものの、部屋にはいつも通りの男が居座っていた。

「やあ、マスター。お帰り」

「オベロン。ただいま」

「どうしたんだい、そんなに不機嫌そうな顔をして。あっ、もしかして女性職員からきみの下着を受け取ったのがいけなかったのかな?」

「うっそ! なんてことしてんの?!」

「あはは、冗談だって。下着は流石に受け取ってないけど、その代わりにカルデアの制服は受け取らせてもらったよ」

下着は後で職員のところに受け取りにいきなよ? 制服を差し出しながらオベロンは胡散臭い笑顔で立香を見る。

第六異聞帯を超えて召喚された彼だ。今は蝶の翅を生やした姿をしているが、その実大嘘つきの虫の王様。人類史への怒り。そんなものを腹に抱えている男である。そんなことを立香はわかりきっていた。

「ありがとう。……それよりオベロン」

「なんだい?」

「何で怒っているの?」

「……、怒ってる? きみには僕が怒っているように見えるのかい?」

「うん。すっごく怒ってる。それを笑顔で隠しているように見える」

「へぇ……」

ざわざわ、ぞわぞわ。淡い銀から黒へ。瞳の色は変わらない、濃い空の色だけれど、姿を変えてオベロン・ヴォーティガーンの正体を現した格好になる。

「まあ、きみの言うとおり、俺は今すごく腹が立ってるかもな?」

「それって、この紙のせい?」

育成歴を求める紙を差し出す。それを憎々しげに睨み付けるが、オベロンは受け取ろうとしない。受け取ったらそのまま破り捨ててしまうとでも言うように、ため息をつかれた。

「オベロンは本当に優しいね?」

「優しい? 俺が? ……きみ、頭大丈夫か?」

「大丈夫だよ。だって、この紙は私の全てを暴こうとしている。それに対して怒ってくれているんでしょ? だから優しいなって」

人に己の全てを晒すことに、人間であれば少なからず嫌悪感を覚えるはずだ。それでも立香はそれを良しとして書類を受け取った。少しだけ思った嫌だという気持ちを押し込めて、何事もないように笑顔を振りまいて、ただそれを無になって書くために部屋まで持ってきたのだった。

「その紙破って良いのか?」

「それはダメ。でも、私の気持ちを理解しようとしてくれて、大切にしようとしてくれてありがとう」

「……ちっ!」

「舌打ちもダメ! ナーサリーちゃん達が真似したらどうするの?」

「好きにさせておけばいいんじゃないかな」

ありがとう、と言う気持ちの後にほんのり感じた立香の気持ち。

そうやって見てくれる人がいるから頑張れる。

そんな気持ち捨ててしまえと思いながら、オベロンは無意識に舌打ちをしていたのだった。