42、ベッド攻防戦
「おい、どけよ!」
「絶対どかないよ!」
ベッド攻防戦。オベロンと立香はどちらがベッドを占領できるかという争いごとをいつものようにしていた。一つだけ弁解するとしたら、占領されるベッドは立香自身のベッドであり、二人が争っている部屋も立香の部屋なのだが、なぜかオベロンは毎日のように立香の部屋のベッドを我が物のように使い倒しているのであった。
「あーあ、これから食堂でアーチャーお手製のすごく美味しいお菓子が配られるのにな。マスターってば取り逃してかわいそうだね」
「それ言うならかわいそうなのはオベロンじゃない? 今日のお菓子はメロン味って言ってたよ?」
「別にメロンが好きってわけじゃないし、俺は構わないんだけど?」
「私だって、マシュに一緒にもらってきてって頼んでるから大丈夫だし」
「……」
普段だったらこのまま続く攻防。今日は何故かそれが続かずに、オベロンは口を閉ざして何かを考えていた。
「あれ、オベロン?」
「マスター。俺、今すごく良いことを聞いたんだけど、マシュがこれからここに来るのかい?」
「えっと、来るけど?」
ひやり。何故か立香の背中が冷たくなる。嫌な予感がするというのだろうか。目の前で良い笑顔を浮かべている男に、無意識に後ずさった。
「あれ? どうして逃げるんだい? それとも俺に場所を譲ってくれるのかな?」
「い、いやあ……なんか嫌な予感が」
「嫌な予感だなんてひどいじゃないか。俺はマスターと仲良くしたいだけなんだけど」
「な、仲良くって、なんだろう」
じりじりとオベロンは立香に近づいていき、立香はその分離れる。けれどそれもすぐに終わってしまった。トンっと立香の背中がベッドの端、壁に付く。まずい。立香がそう思ったときには手をオベロンに引かれ、押し倒されるような体勢になった。
「ちょ、ちょっと。オベロンさん?!」
「なんだい、マスター?」
「なんだいじゃなくて……近い近い!」
「それはそうだろ。これから交尾するんだから」
「交尾って……しません! しませんってば!」
「ははっ、マスターってば今更拒否するのかよ」
押し倒され、両肩を捕まれる。そのまま体重をかけられて骨がきしむような音を立てた。これは、このまま食べられるかもしれない。そこまで至ったところで、扉からノックする音が聞こえる。
「先輩、マシュです」
入りますね。そう聞こえた気がしたところで、立香はオベロンに、手で口を塞がれる。まずい。これは後輩には絶対に見せてはいけない。立香は一瞬考え、そして。
「先輩、なぜオベロンさんが天井に突き刺さっているのですか?