49、愛の霊薬と三色すみれ
「おっべろーん!」
「……」
「どうしたんです? マスターってばいつからそんなにオベロンのことが好きになったのでしょう?」
「え? いつからだって? 最初からだよ? ……それにしても。キャストリアちゃんだって大好きなんだから、ほらほら、もっと近くに来てってば!」
「はわわ、マスター。近い、近いですって」
「……」
どうしてこんなことになったのだろう。先ほどまではぎゅうぎゅうと抱きつかれて、今は片腕が持っていかれている。両腕にキャストリアとオベロンの腕を抱いた立香はご機嫌そうに、まるで歌でも歌うかのように笑顔を浮かべている。
こんな笑顔、いつぶりだろうな。別に笑顔を浮かべていないことなんて無かったけれど、それでもここまで見事にご機嫌そうな姿でいることは珍しかった。いつだって浮かべている笑顔は偽物のようであり、それでいて、それを隠すのも上手だ。最近は心を閉ざすことを覚えたかのように、オベロンやキャストリア、その他千里眼を持っているものですら、彼女を理解することに苦労していた。それが、これなのだ。
心から楽しんでいる。もし、他の者が同じように心を理解できるものであったら、おそらく温かいと表現できるような気持ちを、藤丸立香は浮かべていた。
どうしてこんなことになったのかと言われれば、鬼の一匹が立香の飲み物に細工を施したからだとオベロンは理解していた。毒が全く効かない彼女にも効いたそれ。毒が効かない代わりに精神だけ汚染されたのか、彼女が持つ本来の心が露出されている現在。『みんな大好き』『いつもありがとう』。こんな反吐が出るような台詞で埋め尽くされ、自分のことをやっぱりこれっぽちも考えていない立香の心にため息をつ来たくなると共に、今の状況を利用するしかないと考える。好きだ好きだと心に浮かべているだろう立香。それに嘘はない。それだったら面白いことができるのではないか。カルデアをめちゃくちゃにする手伝いをできるのではないか。
愛の霊薬も三色スミレも必要ないだろう。今の立香は少なくてもキャストリアとオベロンのことを好いているのだから、それはきっとあいつらなんかよりもね。
オベロンはキャストリアや立香を連れて、近くにいる妖精騎士やモルガンの元へと歩みを進めようとしたのだった。