【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(51~60) - 4/10

54、時計の針は進む

チクタク、チクタク。

かわいらしい音が響く中、カリカリと別の音も鳴る。それは書類とにらめっこしているマスターの元から聞こえ、傍らでは「ふぁ、あ」といった間の抜けたあくびをかみ砕いた声がしていた。

「そんなに眠いなら、自分の部屋に帰れば? オベロン?」

「帰ったらきみ、速攻でここにダイブして寝始めるだろう? ただでさえつかの間の夏休みを宿題で終わらせかけたんだし、誰かが見張っておかないとな」

ごろりと背中を見せ、大きくのびをするオベロン。背中に生えた翅も一緒に伸びているように見えるので、それって偽物の翅とは違うんだねと言いそうになるが、そんなことを言ったところで嫌味が帰ってくるのは分かっていたので、書類に目を戻してにらめっこを続ける。

あと少し、本当にあと少しなんだから。報告書という名の書類を書き始めてもう何時間経ったのだろうか。書記担当の女性が泡を吹いて倒れてしまうような事件だったなと思いつつ、空白を文字で埋めていく。

アンデルセン辺りだったらタブレットで直接入力してくるのだろうけれど、下書きは少なくてもアナログで書きたい。そう考えながらページをめくる。これで完成。書類を持ちながら伸びをするように椅子にもたれかかると、書き終わった書類が一枚、ふわりと中を舞ってベッドへ吸い込まれるように落ちていった。

「へえ、きみってこんな字を書くんだ」

「……それは嫌味か何かかな?」

「まさか。達筆な字だなと思っただけだよ。流石俺らのマスターだってね」

「うう、分かってるもん。私の字が人より汚いことぐらい」

アナログは好きだ。文字サイズだって自由に変えられるし、真四角のレイアウトではなく自分で考えて枠の中などにおさめられるから、かえって整理整頓されて読むことができる。それでも、だ。オベロンに指摘されなくても自分の字が下手なのは理解しているけれど、そう真っ直ぐに言われると流石に傷ついてしまうのだった。

「きみってば、本当に変なところでくよくよするよね。別に字が下手だからってそれもきみの個性だろ?」

「個性って言ったら個性だけど、それって結局見にくいってことで、後で迷惑かけるじゃん」

パソコンを立ち上げ、報告書のテンプレートを開く。下書きは終わり。これから文字打ちが始まるけれど、一時間もかからずに終わらせられるだろう。

肩が凝るけど仕方が無い。

バサバサと翅を動かして書類の束を飛ばそうとしているオベロン。彼の背中に生えているものを押さえつけるようにしながら、変な体勢のまま電子レポートを書き始めるのだった。