57、星空を見ながら
星空を眺めながら、明日の行動について考える。
明日は頑張ればノリッジまで迎えるだろうか、それとも途中の高原で一休みとなるだろうか。それからマシュは……そんなことを考えて、ため息をつく。ああ、あのとき見失っていなければ。でも、あのときがあるからこそ、今があるんだ。そんなことを考えながら空を見上げる。
満天の星空。昼間は黄昏色をした空であったけれど、夜は汎人類史と同じ色の空なんだ。大きく息を吸って、吐いて。パチパチという木が燃える音を聞きながら、もう寝てしまおうと思ったとき、風に乗るように声が聞こえた。
「やあやあ、どうしたんだい?」
「オベロン?」
「そうさ、僕はみんなのオベロン。みんな眠ったかと思ってきてみたんだけど、君が起きていたからさ……何か悩みがあるんだろ?」
「悩み……まあ、それなりにはあるかな?」
「眠れないのはマシュのことがあるからかな?」
「あはは、流石だね、妖精王」
今までの生き方に後悔はしていない。現に特異点を七つ、異聞帯を五つも進んできている。実績だけ考えればこれは十分なことなのかもしれない。けれど、それでも……。
「後悔があったり、悩んだりしていることはあるよ」
「そうかい。……もし僕で良かったら、話を聞こうか?」
「ううん、それはまた別の機会で良いかな」
「……」
「あ、勿論オベロンが嫌いとかじゃなくて。みんな近くで寝てるから、聞こえちゃったりしたら嫌だし、それに起こしちゃったりしても悪いじゃない?」
「それはそうだね。そこはうかつだった」
謝ろうとしたオベロンに、そんな頭を下げなくてもと慌てた記憶。そんなこともあったなと思いながらも、現在同じように星空を見上げつつ、眼下にある黒い髪を撫でつける。
なぜだか始まったマスター争奪戦という名の膝枕を賭けた戦闘。嫌々ながらに参加していたオベロンが勝者となったのだった。私の人権、拒否権は何処へ……。そんなことを考えながら差し出した膝に豪快に寝っ転がって、何か言うまもなく深い眠りに落ちたのには驚いたけれど、必要ないとはいえ最近はあまり寝ていなかったと眠る少し前に少し呟いていた。
「おやすみ、オベロン」
柔らかい髪の毛を梳きつつ、時々頬をも撫でるようにする。
今は相談事を聞いてもらうことはないけれど、それでもこんな時間が愛おしく、優しい時間だと感じるのだった。