【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(51~60) - 9/10

59、「最後まで付き合って」

悲鳴、広がる血しぶき、助けられなかった命。どうして、どうして。どうして助けてくれなかったの? 実際に目の前にいるわけでもないと分かっていた。これは夢なのだと、耐えれば良いだけのものなのだと分かっている。それでも、目の前で崩れていく人だったもの、生きていたもの達に、どうしても心が悲鳴を上げる。

もう嫌だ、これ以上は進みたくない。でも、進まなければ。吐き気を押さえて立ち上がる。拳は握りすぎて爪が皮膚に刺さったのか、わずかながらに痛みを感じた。

「きみ、こんな夢まで見て……それでもこの先まで進むんだ?」

「うん、進むよ。進まなきゃ、いけないんだ」

汎人類史のために。心を透明にしてでも、進まなきゃいけない。嫌だ嫌だと自分の中で駄々をこねる自分を押さえつける。夢の中ぐらい嫌だと言ってもいいんじゃないか。でも、それはできない。矛盾した感情が心に広がる。そんな光景を視てなのか、夢の中に勝手に入ってきたオベロンはため息をついた。

「本当にきみは諦めが悪い。あの奈落でだってそうだった。……あと少しだった。あと少しで汎人類史を滅ぼす、カルデアを崩壊させることができたのにさ」

「それは、ごめんね」

「なに? 謝られても今更どうしようもないだろう?」

君が謝ったところで結末は変わらない。俺は奈落を落ち続け、その果てにカルデアに呼ばれることになる。クソの集団の仲間入りってわけだ。

自嘲するように笑うオベロン。それでもひねくれ者の彼だ。彼の言いたいこと、本心はなんとなく分かっていた。

ぐちゃぐちゃに、ボロボロに。自分自身の心が、身体が、悲鳴を上げている。特異点を進んでいるときにはまだ良かった。そこから先は意味合いが違っていた。異聞帯を進み、剪定された世界を壊していく。進むことがなくなった世界を、いらないものとして排除していく。自分たちの世界を取り戻すために。そのたびに、進んでいくたびに、私の心は悲鳴を上げた。だから、悲鳴を上げないように、何も感じないように、ただひたすら前を向いていた。オベロンはそうなってしまう原因を排除したかったのだろう。

何故オベロンがそこまで私に心を砕いてくれるのかは分からない。それでも、ほんの一欠片、私のためにもカルデアを滅ぼそうと、世界を滅ぼそうとしてくれたのかもしれない。そう考えてしまうと、透明にしたはずの心にほんの少しだけ、彩が灯るのだった。

「ねえ、オベロン?」

「なんだよ」

「ありがとう」

「……っ、ほんっと、こういうときにいらないことを言うよね、きみは」

ありがとうじゃない。きみは言いたくないだろうからあえて言葉にはしないけど、こういうときは別の言葉を言うんだよ、馬鹿。

口元を歪めて、眉をひそめながら言うオベロンの耳に口を寄せる。そうして私は彼の欲しがっているだろう言葉を口にするのだった。