62、「するわけないだろ」
「オベロン! ……ってこんなところに」
「なんだよ?」
「きったな! えっ、どうしてこうなったの?」
正しくノックをして入ったオベロンにあてがわれた部屋。召喚されてから一度も訪れたことがなかったそこには大量のゴミが蓄積されていたのだった。
「人の部屋に勝手に入ってきて汚いとは酷いな、マスターは」
「ノックはちゃんとしたんだけど。というより、バレンタインの時に用意した部屋だけじゃなくてこっちまで汚いのはどうかと思うよ?」
臭いが出てないだけマシだけれど、それでも膝下までは軽く埋まってしまうようなゴミの山の奥に、ベッドがかろうじて見える。普段はそこで暮らしているのか、ベッドの周りに食べたアイスの蓋などが見えた。
「うるさいな……それだったらマスターが手ずから掃除したっていいんだけど? ただし、ゴミとして処分して良いのは俺からの許可が出たやつだけな?」
「それっていつまで経っても許可が出ないじゃん」
「俺のことよく分かってんな?」
「ウケるとか言いたそうな顔してるけど、全然面白くないからね!?」
全くもって面白くない。確かにサーヴァントの中にもゴミを捨てになかなか来ない人たちもいる。ただそんな人たちは、ナイチンゲールの治療によって、徐々にだけれど改心したのだった。
ゴミ屋敷の中で生活していたら、彼女ほどではないにしろ衛生面が心配だ。いくら全てを吸い込むダイソソみたいな宝具を持っているからと言って、そこを心配しないのは私にはできないこと。
許可が出たやつだけと言われたけれど、とりあえず整理するだけでもできたら多少は綺麗になるのではと思い、腕まくりをする。そうして部屋の主であるオベロンの先のゴミへと向かった。
「……本当に捨てるのかよ」
「捨てはしないよ。でも、捨てるときに捨てやすいものと捨てにくいもの、それらに分けておくだけでも良いでしょ?」
「全く、本当にきみは何を考えているんだか」
破れかかっているゴミ袋を開く。ごちゃごちゃに入っていたら、捨てる時に簡単に捨てられないのだ。まずは分別、とそれのうちの一つを手に取った。
「あれ、これ……」
エミヤ印のメロンアイスのカップ。タマモキャット印のうどんの容器。それから子供サーヴァント達が作っていたと記憶しているかわいらしい髪留め。それらが全部、綺麗に洗われて、一つ一つ袋に入れられている。記憶にある限り、限定品として配っていたものや、誰かが大切に作ったものが、ゴミ袋に入れられて、辺りに散らばっていたのであった。
「オベロン、これって」
「ああ、それ? 別に他意は無いけど?」
「でも一個一個……ってこれも」
白を基調とし、そこに金と青の装飾がされている箱が転がり落ちる。それは今年の初め頃に見た箱で、ずいぶんと悩んでから渡したものだと思い出した。
バレンタインチョコの箱にはタグがついていて、日付と簡単な説明がつけられている。それも勿論袋に入っていたけれど、チョコの箱についていたリボンまでしっかりと保管されていた。
「オベロン、これって?」
「……」
「これってさ、喜んでも良いやつなのかな?」
「別に、好きにすれば良いだろう?」
素直に喜んで良いやつなんだ。タグまでつけて管理していたことに正直少し怖くはなったけれど、それでも彼がどれだけ私からのプレゼントを大切にしていたのかが分かって嬉しくなる。
「ねえ、オベロン」
「だからなんだよ」
「もし、良かったらだけど、コレクションケースを部屋に置いてみない?」
善意百パーセントで問いかける。大切にしているモノなのにゴミ袋に入れて保管しているのはいかがなものか。せっかくなのだから、一個一個丁寧に扱った方が渡した方も嬉しくなるんじゃない? そんなことを考えながらずっと後ろにいたオベロンの方を向くと……本当に嫌そうな顔をしたオベロンが立っていたのだった。