63、大切なもの
「ぼーてがーん、ぼーてがーん」
「あぁ、もう! なんなんだ、君たちは!」
「あそんで、あそんで!」
ウェールズの森。発生したばかりのころから繰り返し聞こえていた声。純粋無垢な声に、無下にできない自分。ただ雑に蹴りあげたりするだけで、遊んでもらっていると勘違いして『きゃー』と喜びの黄色い悲鳴を上げ始める虫妖精達にイライラとしながら、手渡されたどんぐりや花の輪を握りつぶすことはできなかったのだった。
「はぁあ……」
我ながら律儀な性格というかなんというか。一見するとゴミまみれな部屋の中心でメロンカップのアイスを口に含む。
あの袋には何が入っていて、別の袋にはまた別のものが入っている。ゴミ袋と書かれたものに入っている理由は、単にそれ以外で大きな袋がなかったからなのであった。
「そういえば、来年も渡してくるのか……あいつは」
橙色の髪の少女を思い出す。全く吐き気がするほどおぞましい令呪を以った主従関係。それでもその関係に収まってしまったのは、奈落に落ちながら見た光のせいなのか、それともなんだったのか。ふと手を伸ばし召喚に応じてしまったこと。それは事故だったと思いたいと頭を振るい、ゴミ袋の一つを開けて中を見る。中にはバレンタインにもらったチョコレートの箱であった。
繰り返しになるけれど、全く自分でもどうかと思うほど律儀な性格だ、なんて皮肉も良いところ。この箱と中身の甘ったるいお菓子を渡してきた、自身のマスターである少女を考える。
決して恋だの愛だのと踏み込んでこようとしないのに、真っ先にチョコレートに気持ちを乗せてきた少女。本当はそんな気持ちをかみ殺しつつも気丈に振る舞っている少女に気持ち悪さも感じるけれど、それでもなんとも言えない今のこの関係も悪くはない。そう思ってしまう自分もだいぶ絆されたものだと感じつつ、扉から聞こえたノックの音を無視したのだった。