【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(61~70) - 5/10

65、虚栄の塵

消費するという行為。それは生きていれば必ず行われる行為。必ず行われる……そんな行為であるのだけれど、それにしてもこれは酷いと、立香の部屋を訪れたオベロンは思うのだった。

オベロンの目の前には一心不乱にチョコレートについてのレポートをまとめながら、一つ一つ吟味をしている立香。足下に散らばるチョコレート菓子の包み紙が二、三個ならまだ良かったのだろう。ところがそれをゆうに超えて散らばっていた。

流石に膝までは行かないけれど、くるぶしぐらいまでなら埋まってしまうのではないかと錯覚する量の包み紙に囲まれながらも、一心不乱に食べ進め、そうして味の感想をメモしていく。合間にコーヒーを呑んで口直しするのも忘れない。

オベロンが引いてしまうほどに集中している立香であったが、扉の開閉音を聞いて、オベロンの方を向き、顔を輝かせたのだった。

「わぁ! オベロンだ!」

「なんだよ、俺が来て感動でもする状況だった?」

「うん! だって、この間可愛い箱と素材くれたでしょ?」

「……」

虚影の塵のことを言っているのだろうか。それだったら確かにベッドサイドに置かせてもらったけれど、お礼を言われることでもないし、ましてやそんなに目を輝かせられることでもない。オベロンは思う。このマスター、バレンタインチョコにまみれておかしくなってしまったのではないか。それとも頭までチョコレートでできているんじゃないか。

「あの素材の味も良かったよ。塩味が効いていて、チョコレートの間のつまみにはちょうど良かった」

「あれを食べたのかよ!」

「うん、勿論。だってバレンタインにくれる食べられそうなものってことは、そういうことでしょ?」

「そんなわけ無いだろ」

「そんなわけ無かったの?」

食べ物に毒を仕込まれるだなんてことを一切考えていないマスター。こいつ、過去の異聞帯のことを忘れていないだろうな、とオベロンは考えてしまう。

表向きは良いが実際はつまらないもの。虚影の塵にはそんな意味がある。勿論、外箱のことも踏まえて、それと同じ意味を持たせたつもりだった。それこそ自分を体現しているようなものだろうというものを贈ったつもりだった。それなのに、藤丸立香はその中身を食べ尽くしてしまったのだ。

別に痛くもないのに、頭が痛いとオベロンは錯覚しそうになる。

自分が何をしたのか、何を消費した、身体に受け入れたのかを考えないまま、再び一心不乱にチョコレートを食べ始める立香を止めるべきなのか、そうしない方が良いのか。数日後に歯が痛いとか、体重が増えたとか言いながら泣きついてくる姿を少しばかり想像してげんなりする。ただ、それはそれとして、食べた感想を聞いてやろうだとか、食べた責任でも取ってもらおうだとか、オベロンはそんな適当なことを考え始めたのだった。