【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(61~70) - 6/10

66、破壊衝動

「ありがとう、オベロン」

「っ……!」

嘘だ、嘘だ、嘘だ。

こんなことが許されてなるものかと、傷口に手を当てる。回復のスキルなんか持っていなくても、圧迫するだけで流血はおさえられると聞いていたので、それを試みる。ぎゅっと押し、ぐちゃりと手に滑る肉片が絡みつく。

ああ、こんなあっけない最後なんだね。世界を救うためと歩んできたきみの最後は、こんなにも煤けて誰にも看取られることが無いようなところだったなんて。

燃え広がる戦場の中、一匹の虫竜が、彼の主のために吠える。そして、全てが滅んだ。

 

「っっ……!」

ぐしゃりと濡れる衣服は重い。不覚にも、先ほど見た夢の肉片を思い出すような気持ち悪さに舌打ちを打つ。必要の無い眠りを貪っていた。サーヴァントが夢を見ることなんて無いと理解していたが、それならばと、隣で眠っているマスターの顔をのぞき込む。脈拍は恐れるほどではないが幾分か早く、顔色も悪い。夢の中であろうが容赦なく襲いかかるどす黒い感情、彼女を傷つけているもの。

彼女を犯しているのは夢の中の死か、あるいは現実のこの環境か。

いっそのこと滅ぼしてしまおうか。

彼女に負けた瞬間、奈落へと落ちていった瞬間にこんな感情はなくなってしまったものだと思っていたが、不意に『全てを終わらしてしまおうか』と言う感情が溢れる。この感情は、この思いは、ただ一人に向けたものだったはずなのに。それを、目の前でうなされているきみに向けるだなんて。

ある日マスターを探していたら、サーヴァント達に囲まれて、そいつらに笑顔を向けていた。また別の日には、食堂で職員達と談笑をしていた。

全く何が楽しくて、なにが幸せでそんなに笑顔を振りまいているのかは分からない。自分にはそれを理解できる感情なんか、機能なんかは無いはずなのだ。けれど、その笑顔を、その笑顔を向けている先を含めて、ただ単に破壊し尽くすだなんてもったいない。そう思ってしまうのは変えられないものであった。

「う~……もう食べられない、よ」

「……」

種類が変わったうめき声にため息をつく。一瞬浮かんでしまったどうしようもない破壊衝動を目の前のこいつは理解しているのだろうか。あまりに緩んだ、人類最後のマスターなんか似合わない顔に、思わず彼女の頬を右手で抓ったのだった。