67、深夜の出来事
心が限界を訴える。もういいんじゃないか、ここで終わっても良いんだよ。そこで私は足を止め、そして……。
「きみがどうなろうとどうでも良いんだけど、それ、今食べるものなわけ?」
「うう、だって……」
「そんなにこってりとしたものをこんな時間に食べようだなんて、よっぽど今日の訓練は大変だったんだね?」
にっこりと笑顔を浮かべる妖精王。オベロン・ヴォーティガーンを全面に押し出した黒い王子様姿よりこちらの方が効くと分かっていて、白い王子様の姿をして指摘するオベロン。
真夜中にひっそりと食堂に忍び込み、手を伸ばした保存食。ばれてしまったかと、お湯をすでに入れていたカップ麵をシンクの端に置いた。
「トレーニングは、分かってるでしょ? いつも通りだったよ」
「それだったらカロリーの過剰摂取になるわけだ。それに、昼間にエミヤとタマモキャットが在庫確認をしていたらしいけど、そんな話を聞いてないわけじゃないだろう?」
「それも……知ってます」
食べ頃だよとなり始めるタイマーを止め、オベロンを見る。どうでも良いと言いつつ、どうでも良くないのだろう。本当に面倒見がいいサーヴァントだ。ただしこんなことを考えていると知られれば、捻くれている彼に突っ込まれる口実になってしまう。だからといって口を閉ざしても何か考えがあるとばれてしまうけれど。
「それにしてもだ、メロンを食べようと思って食堂に忍び込んだら偶然にもマスターがいたわけだけど」
「何? オベロンも夜食を食べに来たの?」
「そうだよ? 勿論昼のうちにエミヤに頼んでメロンを準備してもらってさ。忙しい彼の手を煩わせないようにね。……きみとは違ってしっかり申請はしてるさ」
「……」
「話は戻すけど、きみは僕にどうして欲しい?」
「どうって言うと?」
「エミヤに差し出されるか、ナイチンゲールに差し出されるか、それとも……戦闘狂か、バーサーカーの集団にたたき込まれるか」
どれを選んでもいけない気がした。思わず一瞬口を閉ざすけれど、ふと考えが浮かび、それをそのまま口にする。
「オベロン」
「ん?」
「だから、オベロンがいい」
「……」
「メロンを食べるオベロンと一緒にカップ麵を食べて、その後エミヤに一緒に怒られに行く」
「どうして僕まで怒られないといけないのかな?」
「だって、エミヤに許可をもらっただなんて嘘でしょ」
「……、ああ、そうだよ?」
「だから、私だけ怒られるのはフェアじゃないかなって」
目の前のオベロンは一瞬目を丸くするけれど、その後、ニヤリと笑う。
やっぱり、そうだった。
もし私がどれかを選んでいたら、オベロンはメロンを食べたことまで私になすりつけるつもりだったのだろう。それだったら、一緒に食べて、一緒に怒られる。それでいいんじゃないかと思ったのだった。
「フェアじゃない、ね。……まあ良いだろうさ。一緒に食べて、一緒に怒られるのもまた良い経験かもしれないし、正座の体験も面白そうだしね?」
「本音は?」
「全部マスターにおっかぶせてやろうと思ったのに、コノヤロウ! かな?」
「うわ、サーヴァントとしてそれはどうなの?」
深夜の食堂。聞こえない程度に騒ぎつつ準備を整え、のびたカップ麵とメロンを、それぞれ優雅に食べ始めるのだった。