80、「嘘つき」
秋の訪れを空気に感じる。秋は一つの恋の季節。甘い香りが漂い、沢山の果物や木の実が豊かに実る。カルデア農作部の休憩スペースで座りながら辺りを見渡し、果物狩りをしたり、眷属を召喚して木の実を探し出したりしているサーヴァント達を見ていた。
「やあ、マスター。こんなところまで足を運ぶだなんて熱心なんだね」
「オベロン、おはよう」
王子様スタイルであろうオベロン。オベロン・ヴォーティガーンとしての姿ではないけれど、なんとなしにそれをこちらに滲ませてくるひと。声をかけられたことに内心びくりとしつつ、オベロンの方へ振り向き、そうして口をあんぐりと開けたのだった。
「何でそんなに酷い顔をしてるんだい?」
「いや、それは……だって……」
「だって?」
「そんな格好になってたら驚くでしょ」
好きな人に声をかけられる。そんな些細なことにドキドキとしていた心臓は、別の意味で音を立てていた。
麦わら帽子にサロペット。どこかの槍サーヴァント達が着ていた洋服をあのオベロンが着ている。確かに最近サーヴァント達が独自にお店を開いたりしていると聞いていたけれど、オベロンズフルーツファームというロゴの入ったTシャツを何処で作ったのだろうか。似合わないようで似合ってしまっているそれ。足下に虫妖精達も集まってくる。おべろんだ、かっこいいね。そんな事を言っているように感じる。対してオベロンはむずかゆいような顔をしつつ、妖精語で何かを虫たちに話していた。
「ねえ、オベロン」
「なんだい?」
「服、似合ってるね」
「ありがとう。ハベトロットとクレーンが僕のためにって作ってくれたんだ。別に着なくても良かったんだけどね? ただこいつらがもったいないって言うから着てみたんだよ」
こいつら、と言いながら視線だけで虫妖精達を指す。オベロンの下でキャイキャイと楽しそうに戯れる虫たち。可愛いな。そう思って反射的に手を伸ばそうとして、オベロンに止められた。
「きみ、何しようとしてるわけ?」
「何って……撫でようとしてた、んだけど?」
「覚えてないんだ? 僕の住んでいた森にいた妖精達。あいつらは毒を盛っていたものもいるんだけど」
「そうだったね。でも、大丈夫かなって思って?」
「根拠は?」
「オベロンのところの子達だから」
「はあ?」
「今のオベロンはカルデアに対して害悪なことはしない、でしょ?」
害悪なことはしない。一部には進んで悪いことをしようとするひと達もいるけれど、ストッパーがいたり、必ず止められる。そして、オベロンはどちらかと言えば元凶にはなる方だけれど止める側だと思う。だから勘だけれど、この虫妖精達もたとえ毒を持っていたとしても、オベロンが毒抜きをしてくれているんじゃないかなと思った。
「……別に僕はなにもしてないよ」
「嘘だあ」
「……」
妖精達のために色々なことをしているオベロン。みんなのために汗を流し、働く彼。世話焼きで動き回る彼に、ハベトロット達は考えて贈ってくれたのだ。
いいなあと思った。私が贈っていたとしたら、どんなものを贈っていたのだろう。できれば使ってくれるし大切にしてくれるものを贈りたい。
「あのね、きみ」
「ん?」
「何か考えていると思ったら……僕は別に何かを大切にしたりなんかしない。ただ効率が良いからこれだって着ているわけだし、きみからものを贈られても、大切にはできないよ」
「それは」
やっぱり嘘つきのオベロン。言葉がねじ曲がることを予測して言っているのか、それとも曲がった結果がこうなのか。何を贈ったとしても大切に、全てを抱えてくれる。そう聞こえるようで嬉しくなる。
秋は恋の季節。世話焼きで、全てを大切にする優しいひと。やっぱり好きになって
良かったなだなんて、そう思いながら笑顔で抱きついて口を開くのだった。