【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(71~80) - 2/10

72、全てを拾おうとする少女

最近見てなかったなあ、だなんて暢気な声を上げるマスターを横目で見る。何故か悲しげな表情を一瞬した後に、それを隠すように目を輝かせて『話の途中だが、ワイバーンだ!』だなんて言ってきたときはどうしようと思ったが、なんとか現れた竜たちを退治し、一息をついたところだった。

「最近って?」

「このオーダーを始めた頃にはよく見たんだよね、ワイバーン。ジャンヌオルタちゃんがいた特異点に行ってたからかもしれないんだけど」

「へぇ? それで、懐かしくなっていたってわけだ」

「まあ、そんなところ」

マスターの冬木からこれまでの道のりは、映像含めて全て視聴していたし、手持ちにある紙の資料、データベースに登録されているものも含めて、一通り目を通していた。その中には迷言とも言える言葉もいくつか載っていたわけだが。

「話の途中だが、ワイバーンだ! ってやつ? あれ、カルデアでも真似してる奴らがいるよな。そこまで有名なやつなのか?」

「うーん、有名って言うより、旅をしているといつも通信の途中でワイバーンが現れてね」

大切な話をしているときに限って現れるから、通信先のカルデアのスタッフも大変そうで。しかもそれが何回も繰り返されて。

マスターは、やはり一瞬悲しそうな色を瞳に浮かべる。

この場にもう存在しない奴らを思い浮かべて、申し訳ないと思いつつも、生きなければ、少しでも明るく振る舞わなければと思っているようであった。

俺の余計な眼は彼女の本音を見せようとしてくる。嘘は言っていないけれど、湾曲している彼女の想い。全くこれはどっちが嘘つきで、どっちが捻くれているか分かったもんじゃあない。思わず口を開いた。

「きみはいつだってそうやって前を見てるよね。いやあ、感心するな。流石カルデアのマスターだ」

「うん? 私は、昔のことも何もかも、なるべく捨てないように、忘れないように、思い出せる限りは思い出してるよ? まあでも、みんなのこともあるからさ、やっぱりそこはマスターじゃなきゃいけないかなって思ってる。そこはオベロンの言う通りかもしれないね」

「だろ?」

「で、そこをオベロンは心配してくれているわけだ」

「……」

「大丈夫だよ。みんなと向き合うために自分を隠したり、乗り越えたって思わせようとする私もいるけど、ちゃんとそういうのが必要じゃないときには、自分にも向き合っているから。忘れたくないって思いとは、悲しいって思いとは、しっかり自分の中で向き合っているから」

悲しげな瞳。それはあるけれど。それでもその中に自分のことを顧みない彼女はいない。自分のことも、それ以外のことも、なるべく拾えるものは全て拾いたい。

彼女の思いは分かったけれど、その無謀さに、それに救われているものたちに、それを良いと思ってしまっている自分自身も含め、全てに対して嫌悪の感情を浮かべそうになる。そして、それを隠すように笑みを浮かべたのだった。