【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(81~90) - 1/10

81、悪夢を見た日

沢山のサーヴァントに囲まれる。口々にする言葉は私を呼ぶもの。でも、それは藤丸立香を呼ぶものではなく、そのひとにとって大切な人を呼ぶものであって……。
「っ……!」
息を荒げ、目を覚ます。久々に見た悪夢だなとため息をついて、そして隣を見て苦い顔をした。オベロンがベッドに入り込んでいる。男女が一緒の寝所で眠るのはどういうことだと保護者系サーヴァント達に後で言われてしまうなと思いつつ、彼を見つめた。規則正しく吸っては吐かれる。きっと眠っているのだろう。普通の人であればそう思うかもしれない。けれど、彼もサーヴァント。サーヴァントは夢を見ない。寝なくても良い。それを分かっていたので、頬を軽く抓ってみた。
「っ、……マスター。きみは寝ているやつに対してそんな態度を取るんだね?」
「いや、寝ていなかったでしょ」
「……まあね。寝てはいなかったさ。ただ、目は休めていたけどね」
食べなくても平気。寝なくても平気。サーヴァントはそういった存在。けれどそれらを嗜好として楽しむ事はする。オベロンがここで狸寝入りをしていたのはそんな意味ではないだろうけれど、それでも謝罪の言葉だけは口にした。
「まあいいさ。別に今日のところはきみと同衾するためにここに来たわけじゃないし。……きみの夢を見てたけど、やっぱり奈落に落ちた方が良いんじゃないか?」
「……」
マスター、マスター。夢を思い出す。サーヴァント達に呼ばれているのは私ではない。私を求めている、私のことを大切にしてくれているひとなんていないんだ。これは最初の頃に見ていた夢。カルデアという組織をまだ理解しきれていなかった、ただ唯一のマスターとして、マスターが大切なんだと思っていた頃の夢。どうしてそんなものを今見たのかは分からない。けれど、今はマスターとしてだけではなく、藤丸立香としてみんなと過ごして、信頼を深めていったのだった。
「奈落は、確かに魅力的だね」
奈落に落ちた一匹の虫を第六異聞帯で見送った。
それでいいんだ。
奈落へ落ちた虫は、満足げだったからだろうか。それとも、終わりを自分も求めたからだろうか。その言葉が自然と口をついたのを覚えている。
確かに、終わってしまいたいという気持ちはある。常にそれが浸食しているとも感じることがある。それでもまだ、私はマスターとして、藤丸立香として生きることを諦めきれないと言う気持ちが、ただその気持ちだけがあるのだった。
「奈落は魅力的だと思う。でも、私はまだ走り続けたい。そう思っちゃうんだよね」
「はあ。きみだったらそう言うだろうね」
「分かってるんだ。……まあ、でも」
一つだけ。終わりを求める以外で奈落へと落ちてしまいたいと思うときがある。それはきっと藤丸立香のわがままなのだろう。
「全部が終わったとき、一緒に落ちてあげるから」
「……」
「君のところまで行くから。だから……私と一緒に」
落ちてくれませんか?
全部を言う前に口を塞がれる。これは言ってはいけなかった事なのだろうか。それとも、私の告白を受け入れてくれたということなのだろうか。
深い口づけを受けながら、彼を感じるために目を閉じるのだった。