【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(81~90) - 10/10

90、マカロン

「おーべーろーん!」
「なんだよ?」
「私のおやつ食べたでしょ?!」
「ああ、あの丸いやつ? 食べたけど?」
「マカロンね! マシュと一緒に食べようと思ったのに」
代わりに何をおやつにしようかと考える立香を、オベロンは置いておく。
別に彼女のおやつを食べるものはいくらでもいるし、いつもだったら、ヘラヘラと笑って許してしまうのだ。それを期待して、それに対して何かを言おうと思って食べきったのだけれど、怒らせてしまった。まあ、怒ったところで戻っては来ないし、それぐらいでどうこうするような仲では無いのは分かっているけれど、珍しく怒った姿に、オベロンは口を噤んでしまったのだった。
「オベロン、聞いてる?」
「聞いてるけど?」
「本当? メロン食べちゃうよっていったんだけど」
「好きにすれば?」
本当に持って行っちゃうよと立香が部屋を出る。視界の端に緑が映ったが、それにオベロンは気がつかずに時を過ごした。

「それで、君は来たわけだ」
「別にマスターに怒られたから作り直そうとか考えては無いさ。それにせっかく作るなら厨房を占拠しているやつらより良いものを作りたい、そうは思わないかい?」
「そうかそうか。暴言に対しては目を瞑るが、虫入りクッキーなどは作らないようにな?」
「善処するよ」
作るはマカロンだろう。怒られた後、なぜだか怒った彼女の声がずっとつきまとうようにオベロンの耳に残っていた。それに対しても思うところは無かったけれど、つきまとってきた虫たちのように五月蠅い。ベッドに転がりながらサバフェスの戦利品を読みあさるも集中できず、仕方なしにマカロンを作り直しに厨房に向かったのだった。
「あとは盛り付けて完成だな」
「なんで君まで一緒に作ってるわけ?」
「君が虫入りのお菓子を作らないかが心配だったからだが?」
善処するなんて言ったからこうなったのだろう。オベロンのジョークは分かりづらいんですよ、だなんて猪のように突撃してくる少女に言われたことを思い出す。別に笑いを取ろうだなんて思ってもいないし、勝手に言葉が曲がるのだ。口に出した事だって信じられない。それを完全に理解できるひとなんてたった一人。オベロンは頭をかきむしりたくなりつつも、調理場の端にあったかわいらしい袋を手に取った。プレゼント用だろうピンクやら水色のかわいらしい袋。まったくどうしてこんなものばかり。気に入らない色ばかり。だけれどそれだけじゃ無い。左手を見る。
鋭すぎる左手。こんなもので触れてしまえばこの袋を引き裂いてしまうだろう。それを少しだけ離れて見ていた厨房の主は、ある提案をしたのだった。

「はぁ~、いっぱい食べた」
「やあ、マスター。きみってば、俺のメロンを勝手に持っていったんだってね?」
「勝手じゃないよ? ちゃんと持っていくって言ったし」
「許可は出してないだろ?」
立香は自分の部屋に入る。マシュとのお茶会はオベロンのメロンを持っていった。先輩、これって食べても良いんでしょうか? そんなことを言う後輩に食べて良いからと一緒に食べきった事に罪悪感は感じていなかった。けれど、自分のベッドサイドのテーブルに置かれた青を基調とした箱を見て、振りかえる。
「オベロン?」
霊退化したのかすでにいないさっきまで話していたひと。一目見た瞬間に彼を思い浮かべた色と、いなくなったタイミング。きっと彼が準備してくれたであろうそれに手を伸ばす。バレンタインのプレゼントは塵だったな。そんなことを思いながら立香は箱を開けたのだった。