【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(81~90) - 2/10

82、想起

例えば部屋でレポートを書いているとき。例えば食堂のデザートでメロンが出てきたとき。そんな些細な事でも彼を思い出す事がある。我ながら重傷だなと思いつつ、それでも思い出しただけで広がる幸せに顔をほころばせていた。

「ああ、そんなところにいたんだ。きみを沢山のひとが探していたみたいでね、僕も声をかけられたんだ」
「オベロン」
痛い、苦しい。それを視られないように、悟られないように笑顔を浮かべる。きっとこんなことをしてもオベロンには丸分かりなんだろうな。でも無視をしてくれないだろうか。きっと無理をしている私を見たら怒り出すんだろうなと思いつつも、顔を上げた。
事の発端はシミュレーションルームでの戦闘訓練。避け切れ無かったキャスターの敵陣の光線が身体に触れていたのだった。触れた直後は何もなかったけれど、じくじくと、時間が過ぎて行くにつれて痛みが強くなっていく。シミュレーション後の健康診断で異常が見当たらなかったからって、一応気を付けておくんだったと自分を叱りながらも、誰もいない倉庫の隅で丸くなっていたのだった。
「僕としては気にくわないしそんな役を降りたらどう? って思ってはいるけれど、きみは仮にも人類最後のマスターなんだろう?」
「うん?」
「だったら人の手を取った方が良いんじゃない?」
「……」
苦しかったら誰かに苦しさを話せと言いたいのだろう。だけれど、これぐらいの痛みは少し休んでいれば大丈夫。そう思ってしまうのだった。
「本当にきみってばさ、……やせ我慢も場合によってはいいとは思うけど、強情なきみにはこれぐらいしないと分からないかな?」
片手に持っていた小瓶の栓を抜き、口に含む。そうして彼は私に近づいてきた。
「……!?」
「……っ、……、……」
両手で頬をつかまれ、乱暴に。でも、やらしい意味ではなく、ただの治療として。
口づけを受け、口の中に苦い液体が広がる。そうして、解放された。
「っ、けほっ、……、な、何?」
「何って薬だけど?」
「薬は分かったけど、何で口で?」
「だってきみ、素直に飲んだりしなさそうだったからね」
素直に飲まなさそう。確かに飲まないだろう。それでもこんなことをされてしまったら、また痛みに襲われたとき、攻撃を受けてしまったときに、ふと思い出してしまうのではないか。そう思ってしまうのだった。