【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(81~90) - 5/10

85、想うはあなた一人

「別にお前と付き合ったのって身体が目的だったわけだし? 全然ヤらせてくれねーじゃん?」
「……」
これは昔の話。二次成長を迎えて少し経った頃。付き合って欲しいと言われて、よく考えずに付き合った結果言われた言葉だ。
一応付き合っているわけだし、好きになる努力はした。身体を求められることもあったけれど、それはまだ私たちには早いと拒否していたのだ。デートはいつも近所のイオンだったけれど、それも将来の笑い話になるのだろうか。昔のデートの話で盛り上がっていたお父さんとお母さんを見てそう思っていたのに、だ。
最初から身体が目的だったんだと納得する。自分の持っているものは持ち前の明るさぐらい。それだけでここまで生きてきたんだから。そう考えて目を閉じた。
「ムカついてるんだろ? 相手を殴るなりなんなりしてもここは夢。別に良いんじゃないかい?」
「オベロン」
どうして私の夢に干渉しているの。そんな事は今更言わない。毎晩とは言わずとも、夢の中でも会っている相手。そんな相手の出現に心のゆとりを取り戻す。ああ、これは本当に夢なんだ。続けられる目の前の光景を眺める。いつの間にか第三者視点で二人を眺めていた。酷い言葉を吐かれて、涙し、そして走り去る。よくある恋愛ドラマのワンシーン。
「酷い三流芝居じゃないか」
「芝居って、実際あった事なんだけど」
「それはますます酷いな。相手は下半身で物事を決めてたわけだ。勿論、そんなやつを選ぶきみも理解できないね」
「……、きみはそうじゃないって?」
「なに? 疑ってるわけ? 酷いな、マスターは。こんなにもマスター想いの一途なサーヴァントを、脳みそ下半身なんて言うなんて」
「そこまで言ってない」
黄昏時の景色。教室に残った男の影がぼんやりと無くなっていく。目の前は暗闇に包まれ、そうして落下し始めた。
「えっ、ちょっ!?」
「ははは、面白い反応だ」
ようこそ奈落へ。そんなことを言い出しそうな、おかしくて仕方が無いというように笑い始めるオベロンに、わけが分からなくなる。どうして、急に。
夢の中で会ったとき。大体はウェールズの森でお茶会をしていた。それなのに今日は奈落だなんて。そう思っていると、下からふわふわと何かが漂ってきた。落下する自分と、それにあらがうかのようにふわふわと上っていく花たち。どこかで見た赤い花。どこだったっけと考えて、そして黄昏時を思い出し、名前を口にする。
「彼岸花?」
「そうだね」
「どうして?」
「さあ?」
どうやら答えるつもりはないらしい。まるで謎かけでもするように、上機嫌なままのオベロンが、花を集めて私の顔にぶつけてくる。痛くはないけれど、それでもぶつけることはないんじゃないかと、オベロンの手からそれを受け取った。
「花言葉ってのがあるらしいじゃないか」
「それを調べてみればいいんだね」
「勝手に調べて、勝手に納得でもしてたらいいんじゃないかな?」
特に意味は無いけど。突き放されるようにオベロンから離される。不思議と落下速度は遅くなり、そのまま花と一緒に上っていく。ああ、オベロンから離れるのは悲しいな。
一筋の光に目を開ける。人工的な明かりに目を覚まし、ベッドサイドのテーブルに用意された花瓶を見つけた。彼岸花だ。こんなものを用意したのは誰なのか。わかりきったことを一瞬考え、眺める。それから図書館へと向かうことにしたのだった。