【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(81~90) - 6/10

86、好きだよ

「うーん、サンソンに頼まれたから指導してるけど、やっぱりこれってサリエリがやるべきじゃないかな?」
「そんなこと言わないで、アマデウス」
「まあ、引き受けたからには完遂するけどさ。どうしてサリエリには頼まなかったんだい?」
「それは」
先約があるから申し訳ない。そう言われてしまっては仕方が無いとアマデウスに頼んだのだった。それを口にすると、おや? と言った表情をした後に、何かを納得したかのように頷いた。
「ああ、それだったら……そうだね。あいつもだけど、全くもって素直じゃないやつばかりじゃないかい、このカルデアは?」
「素直じゃないやつ?」
「ああいや、こっちの話さ。じゃあ、もう一回弾いてみようか」
アマデウスに言われ、ピアノに指を滑らせる。奏でる音の調子は時々崩れるけれど、なんとかさまになってきていた。数日前にはそれはもう酷い音だったけれど、これだったらなんとかカルデア音楽祭に間に合うなと微笑む。
イベントごとも何も無かったカルデアを彩ったのは特異点発生の連絡だけではない。季節ごとや曜日ごとのイベントを盛り込み、華やかな時間を作ってくれていたのだった。
是非マスターにはピアノを弾いてもらいたいわ。ナーサリー達にせがまれての試し弾き。自慢じゃないけれど、最後に楽器に触ったのは小学生のリコーダーぐらい。本格的に行っていたものでそれなので、当然良い曲は弾けなかったのだ。
「うん、僕レベルには一生かけても追いつけないだろうけど、まあ良くはなってきたんじゃないかな?」
「一応、褒めてるって受け取っておくね」
「うんうん、そう思ってくれてていいよ。……そろそろ、時間じゃないかな?」
「あ、本当だ」
時計と予定表を見る。次はサリエリが部屋を予約していた。
「サリエリは時間ぴったりには来るからね。それに、レッスンを受けるやつも同じぐらいには几帳面なやつだったと思うから、そろそろ退散した方が良いぜ?」
「そうだね……って、レッスンを受けるやつって?」
「本当に何も聞いてないのかい? オベロンさ」
「ええ? なんでオベロンが?」
オベロンとサリエリと言う組み合わせ。それもオベロンがサリエリからピアノを教わるという状況。姿はきっと二臨の白い姿なんだろうけれど、それでもなんだか似合わないなと思った。
「知らないさ。でも、時期も時期だ。彼も伴奏にまわるんだろうさ」
「そっか。オベロンが伴奏か」
どんな音を奏でるのだろう。どんな気持ちを込めるのだろう。気持ちを込める気が無くても音に心はこもる。聴衆もそれを感じ取る。アマデウスのレッスンでそれは嫌と言うほどに分かっていたのだった。
「部屋の外でも音を聴けるんじゃないかい?」
「何で言いたいこと分かったの」
「君の心音で把握したって言えば納得してくれるかな? それとも顔に書いてあるっていえば納得するかい?」
アマデウスならどちらもあり得そうだ。それにこれに関しては聞こうと思ってもはぐらかされるだろうとも予測がついていたので、分かったと答えるだけに留めた。そこでノックの音が聞こえ、部屋を出る。

「……これはあまりにも変態的じゃないかな?」
「まあ良いだろ?確実にこれなら聞こえる」
サリエリに続けて入ったオベロン。彼の演奏を聴くために扉に耳をつける。そんな姿に面白さを感じたらしいアマデウスに写真を撮られてしまったけれど、それはそれ。音をしっかりと聞き漏らさないように、耳をそばだてた。
音が響く。旋律を奏でる。これは……。
「ラブソング、だよね?」
数年前に流行った曲だった気がするけれど、どうしてオベロンが。そこまで考えたとき、聞き慣れた音が四つ響いたのだった。