【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(81~90) - 7/10

87、波で想いは流れない

ザブンザブンと波の音が聞こえる。夏ももうすぐ終わる。少しだけ冷たくなった海の水に足を浸した。
ああ、つめたいなあ。そんな当たり前のこと。日差しが反射して橙色になっている水は一見温かそうにも思えたけれど、冷たかった。
「いつまでそうしているわけ?」
「オベロン」
「きみってば、いつまで経っても波に足を浸すだけで遊ぶわけでもなければ、上がるわけでもない。そのうち日も沈んで、凍えるほどに冷たくなってから現状に気づくんだろ?」
水から上がれよ。乱暴に言う夜の姿の彼。夕方だからだろうか。真っ黒なパーカーはまだギリギリ早いんじゃ無いと思いつつ、笑みを浮かべる。
「もう少し」
「は?」
「もうすこしだけ、いちゃダメかな?」
サバフェスももう終わる。ヌンノスたちの災害ももう過ぎた。だけれど、もう少し。ほんの少しだけ、夏を楽しんじゃだめかな。原稿を作るのは楽しかった。みんなで今年の夏も楽しめた。けれど、ほんの少しだけ。彼と一緒の夏を楽しみたい。そう思ってしまったのだった。
「……、好きにすれば?」
「やったあ! じゃあ、早速だけど、オベロンも一緒に歩こうよ」
手を差し出す。きっと何かしら理由をつけてこの手は取られないだろう。それでも、捻くれた言葉を吐く彼は、真面目で、世話焼きで、たった一人の女の子である私すらも大切にしてくれるのである。
「は? 俺に言ってるわけ? 虫に水の中を歩けと?」
「うん」
「……はぁ。まったく、きみは本当に無茶なことを言うよな」
手を握られる。どうして。そう思った瞬間引き寄せられ、一瞬唇が触れあったかと思ったらそっぽを向かれる。
ああ、本当に。期待以上のことをしてくれた彼に嬉しくなる。胸が痛くて、切なくて。そして、苦しくて。
どうしてそこまでしてくれたのだろう。そう言葉を発する前に、そっぽを向いたオベロンに手を引かれ、体温が溶けた水の中を歩くのだった。