【FGO:オベぐだ♀】100本ノック1(81~90) - 9/10

89、見上げた空は青い

落ちる、落ちる。ゆっくりとでは泣く、そこの無い穴に落ちるように落ちていく。嗚呼、ここは奈落だ。落ちつつも考える。手を伸ばしてもその先は闇。そして、下を見ると何かが輝いているように見えた。
風が頬を撫で、落ちても落ちても落ち続ける。さて、なんだろうと輝きを追って下に向かうように、先ほどとは逆方向に手を伸ばしてみると、青い円に手が触れた。
菱形が重ね合わさったような円形のなにか。手で握って確かめると、あの人の冠だと言うことに気がつく。
「オベロン?」
「なんだよ」
ふっ、と現れる。さっきまでいなかったよね。やっぱりここはそうなんだと思って口を開いた。
「ここって夢だよね?」
「きみの夢だけど」
「じゃあ何で奈落を落ちているの?」
「きみが望んでいるからじゃないか?」
「望んでないけど」
まだ人理修復をしていた頃だったか、ホームシックになって、人類最後のマスターであることの重みに耐えられなくなって泣いていたことはある。けれど今は終局特異点を乗り越え、異聞帯を六つも攻略し、ここにいる。私が奈落を、終わりを望むことは無い。そう思って瞬くと、上から光が漏れた。
「……?」
「なんだよ、もう、か」
「オベロン?」
奈落の虫の腹を割いたのは一匹のアルビオンの残滓。それは腹を割いた後、そのままどこかへ消えるように飛び立つ。そして、虫の中から見た空は青い。それは目の前で一緒に落ちていた彼の瞳と同じような色であった。
「オベロン」
「なんだよ」
「この夢ってさ、もしかして」
きみが最後に落ちたときに見た景色なのかな? 口に出すも、彼は答えない。いや、答えないのではなく、答えられないのだろう。その証拠に何かを言いたげに口を開いては閉じるを繰り返している。
腹の隙間から見える空。そしてそこへ向かっていく一条の光。あれはボーダーだろう。赤黒い隙間から見える光に思わず見とれていた。そして、思ったのだった。ああ、汎人類史の空はあんなに青いんだ、と。全く以て綺麗じゃないか。言葉に出す前に目が重くなり、どこからか声が聞こえる。もうきっと朝なのだろう。
ただ、少しだけ。ほんの少しだけ残念だと思った。あんなにきれいな汎人類史の空も、奈落の虫である彼の瞳の色も、今を逃してしまえばこんなにしっかりと見ることはできないのだ。これが今は最期だろうと思いながらオベロンの顔に自分の顔を近づける。オベロンはもちろん逃げようとしたけれど、それを抑え着け、無理やり瞳を覗き込み、ああ、やっぱり同じだと、可笑しくなった。
汎人類史の空と同じ青。きっとすべてが終わって一般人として暮らすことになったとしても、君のことは空を見る度に思い出すのだろう。
先輩、起きてください。間近で声が聞こえる。視界が真っ白に染まっていく。先輩、という声を頼りに現実に戻ろうと呻く。起きた先にはきっと焦ったような顔の後輩と、その後ろで女王にはたかれて拗ねている虫の王様でもいるのだろうと思いながら目を覚ますのであった。