94、メロン
やってしまったと思った。メロンの皮の裏に張り付いていたオベロンと書かれた付箋を見つつ、冷や汗をかく。どうしようかと考えつつ、腕を癖で抓った。
今日も疲れた、なにか甘いものでも食べて癒やされたい。そう思いながら開いた冷蔵庫の中には八等分されたメロンが置いてあったのだ。勿論自分のものではないし、もしかしたら誰かが隠すために私の部屋の冷蔵庫の中に入れたのかもしれないと思い、ラップに名前がかいていないかを見る。何も書いていない。そこまで確認したところでお腹がぐるるぎゅるると鳴り出した。きっと誰かが私のために入れておいてくれたんだ。いや違う、そんなことは無いでしょう。コヤンスカヤにだまされた時のことを忘れたのかな。そんなことが頭に思い浮かぶも手はメロンの乗った皿を取り、フォークを探し始める。そうして食べ終わった頃にオベロンの名前を見つけたのだった。
「どうしよう、オベロンってなんだかんだ言ってメロン好きだよね」
「うん? 僕は確かにメロンが好きだけど、どうしたのかな?」
「そうだよね……って、オベロン!?どうしてこんなところに?」
「ん? それはね、他のサーヴァントに取られたりしないようにって、マスターの部屋にメロンを隠しておいたんだけど、そろそろ食べようと思ってさ」
どうしたの、そんなに慌てて。オベロンが声をかけてくる。オベロンの言ったとおり思いっきり慌ててしまい、不審者そのものの姿をしつつ、なんとか話題をそらせないかと言葉を紡いだ。
「えっと、周回で疲れたところに来られたから、さ?」
「ああ、僕もかり出されたあれだね?」
「ぐっ」
今日の種火周回を思い出す。指示を出す私でさえ疲れているのだから、攻撃やスキル使用を続けていたオベロン達はもっと疲れているだろう。それなのに、私はなんてことを。
悔やんでも悔やみきれない。ただ、お腹は大満足しているというように静かな状態。そんな状態で突然距離を詰められる。
「ど、どうしたの?」
「ねえ、僕のメロンは美味しかったかな?」
「え、ええと、美味しかったです」
言わなくても分かるぞというような恐ろしい笑顔。最終再臨姿じゃ無いのにそれを思い出す笑みに思わず本音を口にすると、へぇ、と言った試すような声が返ってきた。
「きみはさ、酷使しているサーヴァントの楽しみにしているものまで奪うんだね?」
「ご、ごめんって」
「ごめんって言われてもメロンは返ってこないんだけど?……、まあいいや。じゃあこれで返してもらおうかな」
「これって……っ!?」
顔がさらに近づいてゼロ距離になる。えっ、嘘でしょ。キスされてる?
絶対に彼がしてこなさそうなことをしてきた事に混乱しつつ、一瞬で離された口をはくはくと開けたり閉じたりする。言葉が出ない。何を言って良いのか分からない。どうして、君がそんなことを?
疑問ばかりを浮かべている間にオベロンは退屈だというようにあくびをして、そして霊体化してしまう。そうして事を理解して真っ赤になった自分だけが残されるのであった。