【FGO:サンぐだ♀】2022年3月原稿(未発行)(R-18) - 1/8

いつだって

「もう大丈夫ですよ」
「ありがとう、サンソン」
背中から腕にかけての傷にサンソンのスキルを使って治療を施す。傷は見る見るうちに癒えていき、何もなかったとまではいかないものの、ひどい傷がそこにさっきまであったと言われたら嘘だろうと言われるほどに綺麗になる。それを確認してから、サンソンっは立香に声をかけ、リツカはまくり上げていた服を戻した。
立香がいる医務室の前は先ほどまで、シミュレーションで怪我をしたマスターを心配したサーヴァント達が集まっていた。しかし、サンソンとナイチンゲールが、マスターは大丈夫だと説明し、それでも心配するものには説得をする。それからナイチンゲールが外で見張りをすることで、誰一人いなくなっていた。
「怪我をしたらこうして僕たちが直すことができます。魔力切れや体力切れを起こしたらアンプルを打てばいい。マスターはそうやって考えてはいませんか?」
「えっ?」
「その顔は、そうやって考えていますね。勿論現実としてそれはできます。しかし、それはなるべく最終手段としてほしい。それも説明しましたし、他でもされたはずですよね?」
「うん。でも」
「でも、です。なるべく自然の治癒力に任せる。そもそも怪我をしないように気を付ける。それからアンプルの件も、マスターの身体に負担がかかるから使わないように。いいですね?」
「はい。ごめんなさい」
「わかればいいのですよ」
サンソンはうつむいた立香の顔を覗き込んで微笑む。それは一人の医療スタッフとしての行動。相手がどういった表情を浮かべているか、どんな心境であるかを判断する、そうして相手を警戒させないようにするための行動。勿論マスターも分かっているであろうし、いつもであったのなら、それに対してマスターとして正しく振舞おうとする立香であったが、その日は違っていて。
うつむいていた立香はサンソンが覗き込んで笑顔を見せると飛びのくように距離を取る。それによって、彼女が掛けていた椅子が回転し、音を立てて倒れた。
「マスター、どうされました?」
「あ、ごめん。えっと、ナイチンゲールも大丈夫だから。ちょっと椅子を倒しちゃっただけで、なんでもないよ」
立香は大きめの声で部屋の外にいるナイチンゲールに告げる。部屋の扉が少し開きかけていたけれど、そうですか、という声の後にそれは閉じ、リツカはそれを確認してから倒れた椅子を起こして、サンソンの前に座りなおした。
「ごめんなさい、サンソン」
「いえ、僕は何ともありませんが、どうしました、リツカ?」
飛びのくように距離を取った時に見せた顔は、瞬間的に真っ赤になっており、マスターとしての顔より藤丸立香としての顔をしていた。それを考慮して、彼女のことをプライベートでの呼び方で読んだのだった。
「あの、怒らないで聞いてほしいんだけれど」
「怒るような話題なんですね?」
「うん。……あのね、こうやってたまに怪我をして医務室に来て、サンソンに治療を受けることがあるでしょ?」
「ええ」
「そういう時にだけどね、その、サンソンを独り占めで来て嬉しいって、少しだけ思っちゃって」
話しているうちに再度顔をうつむかせる。ただ、先ほどとは違い、耳まで赤くなっていた。
「リツカ」
「うん、わかってる。ちょっと歪んでるよね。おかしいのも分かる」
「ええ、確かに。あなたのその考えは誉められたものではありません。それに、リツカは少し勘違いをしていますね」
「勘違い?」
サンソンの方を向き直って首をかしげる。
「ええ。僕を独り占めしたい。ここに来ると独り占めできる、というものです。僕からしたら、いつでも僕の心は貴女のものだし、あなた一人だけに捧げられている。お判りでしょうか?」
「えっと?」
「僕はいつでもあなたのことを考えていますし、僕の心は、貴女で満たされているんです。この場限りの独り占めなんてとんでもない。いつだって、たった一人に埋められていますよ」
それではダメですか?とサンソンは問いかける。立香はそんなサンソンの問いに顔をさらに赤くして、ダメじゃない、と呟いたのだった。