【霧雨:須賀シオ】∞の約束 - 2/2

当日 控室
「奥さん、お綺麗ですよ。」
「全然、そんなことないですよ。」
「そんなことなんてないだなんて、それこそないわよ。」
「確かに、こんなきれいな奥さんをもらって須賀くんは羨ましいな。」
白いドレスに、目の前で自分に施されてゆく化粧。現実離れしていく自分の姿に目を見張る。後ろで控えている赤いドレスを着飾った美夜子ちゃんとその夫となった望月洋介巡査部長。結婚可能年齢になってすぐに籍を入れたおしどり夫婦として有名なふたり、なおかつあの事件を知っているなら、と仲人として頼んだのだった。
「管理人、私の中で一生結婚しないだろう人物ナンバー1だったのに、お姉さんと結婚するなんて本当にうらやましい。」
望月さんの足の先を踏みながら美夜子ちゃんはそういった。すごく、痛そうだ。
美夜子ちゃんたちは、本当にうまくいっているみたいでよかった。」
阿座河村事件と呼ばれるまでに有名になってしまった望月元巡査と佐久間ちゃんの結婚。一時は結婚を許さなかった両親に対して、駆け落ち未遂まで行ったほどで有名で
まあ、駆け落ちしようとしたけど、それで本気ととらえてくれたみたいで、洋介さんとの結婚も許してくれたんだ。私が洋介を好きな気持ちが伝わってよかった。」
中学生の時からずっと好きで、洋介しかいなかったんだもん、と顔をりんごのように真っ赤にする美夜子ちゃんに対して望月さんも少し顔を赤くしながら反撃のように言葉を紡いだ。
「須賀くん、そろそろくるみたいだぞ?」
時間はもうすぐ12時。式は午後の1時から始まる予定で、その前にちょっとの間だけ夫婦二人でいる時間が作られるとのことだった。

コンコン、とノックをされる。
孝太郎くん?」
ドレスを気にせずに扉を開けようとした私を制し、美夜子ちゃんが扉を開ける。
いつもとは正反対な真っ白な服に、おでこを出すように整えられた、オールバックの髪型。そんなことも含めて新鮮な姿のこうくんに見ほれてしまった。それはこうくんも同じだったようでしばし見つめあう。
「洋介さん、私たち、退出しましょう。」
「ああ、そうだな。」
小さく声が聞こえて、扉が開閉する音。こうくんは気づいていないようだ。
「しぃちゃん綺麗。」
「こうくんも、かっこいいよ。」
私を今まで守っていてくれた大きな手で抱き寄せられる。私の胸も、こうくんの胸もどきどきと音を立てていた。
「しぃちゃん、僕にしぃちゃんのことを、一生守らせてください。」
今更過ぎる問い。笑ってこう返す。
「こうくん、約束。私たちはお互いに、お互いを守ろう。」
いつの日か須賀くんとした約束になぞらって、そう約束をする。
『しぃちゃん 約束。 しぃちゃんは 僕が守るよ』
今度は一方的じゃなくて、二人の、お互いを守るという約束。そんな意味がわかってか、「うん」とうなずいたこうくんがますます強く抱きしめてきた。