【FGO】聖杯をあなたへ - 3/10

ロビンフッド

「ロビン、この戦いが終わったら、放課後校舎裏に来てください。」
……マスター、それは死亡フラグと告白フラグが同時に立ってません?」
7つの特異点で人理修復をしてきて、とうとうソロモンのいる時間神殿までやってきての一言である。目のまえに現れた魔神柱の一瞬の消失を確認した後に発せたられたマスターの一言にどうしたものかとため息をつきつつ、放課後とはいつのことだとか、校舎裏は人気のないところのことだからおそらくマスターの部屋だろうとか、悲しきかな、日ごろおかしなことを突然言い始めるマスターのための解読装置が働き始める。マスターである立香は立香で、ロビンならこれぐらいのことを言ってもいつどこにこいと言われているか理解ができるだろうと踏んで発言しているため、どちらも重症である。
果たして、マスターが今回所望されることはなんですかねぇ……と、ため息をつきながら、新たに出現した魔神柱に不浄を込めた矢を射る。体力の半分は削りきっただろう痛みからの、聞こえるはずのない呻き声を耳でとらえながらも召喚されてからをふと思い出した。隠れるばかりであった後衛の、卑怯ものである自分に対して、種火やら強化素材やらを存分に渡して戦闘に連れ出すマスター。……この時点で十分に酔狂、狂っていると考えてもおかしくない。けれど彼女のゆるぎない意志と、自分を大切なサーヴァントの一人として扱い、強弱利益どんなものに対しても目を背けないでまっすぐ突き進む彼女であったからこそ、期待に応えていこうと思えたのだ。
「マスターの部屋に行くのはいいですが、どういったご用件で?」
「いや、君の今までの戦いに免じて、聖杯を渡そうかと思ってね。」
「っ、マスター。本当にあんた頭おかしくなりました?」
「ははっ、ひどいなぁ。私はいつも正常……君たちを平等に見ているよ。ただ、君はいつも私の期待に応えてくれるし……私は君に君自身の願いを叶えてほしいって思ったから渡したいんだけど、……いいかな?」
爆発に巻き込まれないよう後ろに飛びのいた後、令呪を一画試行しながらも話しかけてくる人は、本当にいつも食堂でAセットにしようかBセットにしようかと三十分以上悩んで、俺から選ばなかった方のメイン食材を盗んでいくような人なのだろうか。別に惚れているわけではないが、その身のこなしは軽やかで、マスターの、現代日本では見られないような身のこなし方で、一瞬目が奪われる。それと同時に魔術回路を通して無理やり魔力が送られ、目の前にある大樹とも思える諸悪の根源の一つを滅ぼすための準備が整ったことを理解した。
「マスター、わかりましたよ。俺だってマスターに最後まで付き合いますって言っちまいましたもんね。聖杯でもなんでも使って俺をこき使ってください」
ですがマスター、まずは目の前の問題を片付けましょう。どうかこのしがない弓兵にご命令を。目で合図を送るとマスターは小さくその言葉を発する。
「それじゃあ……一丁、いきますか!」
一度目を閉じ、深く息を吸い込む。この一矢で勝負は決まるだろう。
「弔いの木よ、牙を研げ。『祈りの弓』!」
目のまえのそれは耐えきれなかったかのように、出現させたそれと一緒に霧散した。