【FGO】聖杯をあなたへ - 5/10

サリエリ

「はい、サリエリさん」
「我はサリエリでは……なんだこれは」
「聖杯です」
まるでお菓子をどうぞとでもいうように手渡されたそれに一瞬目を丸くする。
「これを我に渡してどうするというのだ」
「よくは考えてなくて。でも、強くなってほしいから渡したんだけど、駄目だったかな?」
本来ならば万能の願望機として使われる聖杯だが、ここでは霊基拡張によるレベルの引き上げであった。サリエリはそれすらも聖杯からの知識で即座に理解した。
「なるほど、霊基拡張か。だが、我に渡すなど」
「もったいないとか言わないでね?すでに最弱サーヴァントって自身で言っているあのひとにも渡しているんだから」
戦うことはできないけれど、キミの人生を彩ることはできるだろうといったサーヴァント。彼を思った瞬間に、内を巣食う『殺す』という欲求が体を覆いつくそうとするが、マスターがそんなサリエリに声をかけてきた。
「勿論あの人のこともあるけれど、あの人のことだけじゃなくて、私はサリエリ先生自身に聖杯を渡したいと思って渡してるから」
「なんだと?」
「サリエリ先生にはお世話になっているし、これからも一緒に旅をしていきたいと思っている。それだけの理由じゃダメかな?」
立香は首をかしげる。それすらも、面白おかしいあの男がする仕草と重なって、何とも言えない気分になりながらも口を開いた。
「我がマスターの命令であれば致し方ないだろうな」
「め、命令って訳じゃ」
「ただ、だ。我はサリエリではない。そんな我にこれを渡すということの意味を、よく考えておくことだ」
「うん」
信頼以外に表情にこれひとつ浮かべていないアヴェンジャーのマスター。そんなマスターだからこそ、多くの英霊が力を貸しているのだろうと思いつつ、こんなマスターで大丈夫なのだろうかと心配にもなるサリエリであった。